2018年11月25日

【読書感想文】ハードウェアハッカー

 
先にいつもの一言を書いておく。
買って読め。
 
正直に言うと、私はこの本に批判的な意見を書こうとしていた。
理由は、最近よくある「深セン凄い」だとか、昔の「MAKERS」の真似のような本だと思っていたからだ。(内容が深セン絡みであることは前情報で知っていた)
ところが、読んでみると想像と全く異なり予想斜め上の面白い本だったので感想を書こうと思う。
 
全体の構成だが、まず半分くらいが超マニアックな話なので、俺には全く理解が及ばなかった。というか理解が及ぶ人がどれだけいるのか疑問だ。
明らかに一般向けに書かれたものではなく、専門書と言ってもおかしくない。
つまり、技術を知らない評論ではない。ということで、どちらかといえば、現場の技術オタクの語りが止まらなくなってしまった感じがする。
俺にとって、それは非常に面白いと感じた。
でも技術屋として言うと、量産の技術的な難しさは中国特有ではないと思うのだが。それについての本は読んだことが無いので、エピソードは楽しく読むことができた。
(一応言っておくと、俺は機械屋だ)

 
特に印象に残った話は、オープンソースについての考え方だ。
中国というとパクリとか違法コピーが横行していて、完全アウトのイメージがある。
実際、私が見た現地にも数十万円相当のソフトが600円で売られていたのを見た。(怖いから買わないけど)
それはもちろんアウトだけれど、それとは別にきちんとしたオープンソースの信念がこの本には記されていた。
アメリカが訴訟王国だとか、日本でもJASRACが嫌われ者なのは大勢が知っているが、それに代替わりする別の概念はあまり見たことが無い。
「シェア」のように無駄を省くとかいう話ではなく、もっと自由で新しいものを生み出すための、米国とは違う概念のオープン。
(共産主義国が、米国よりも自由に見えるのは不思議なものだ)
私は非常に面白いと思っていて、今はブラックなものが含まれているけれど、それが洗練された先にはどんな世界が待っているのか非常に楽しみだ。(少なくとも米国の著作権法を調べるよりずっと楽しそうだ)
作中には偽物のSDカード(何をもって偽物と呼ぶのかは難しいが)の話があるが、世界の工場と呼ばれる中国はずっと昔から日本や米国を巻き込んで、ある意味で高度な偽物文化が根付いているようだ。
私は電気電子は門外漢だけれど、時計やバッグの偽物店は現地で見たことがあって(もの凄くたくさんある)そのようなマーケットが昨日今日で出来上がったものではないことは容易に想像できる。
 
これは私が現地で感じていたことだが、中国製=粗悪品ではない
だって、HuaweiはiPhoneに迫る価格の高級機種を出しているのだから、技術はあるのだ。
中国製は不良品を弾かない。だけだ。
日本製は不良品を弾いたりブランドを守ったりする。
それに対して、中国製は不良品を弾かず混ぜていて、良し悪しは消費者が選んでね。というスタンスだと思う。

例えるなら、日本のスーパーに並ぶニンジンが全部同じ大きさに揃えられているような感じだ。(まるで工業製品のようだ)そしてどの製品を買っても、格段悪くないから、正直言ってどれでも大差は無い。
日本食なら、全く意識せずに口に入れても驚くことは無い。
しかし中国の中華料理は、恐る恐る味を見て、ちゃんと食べられるかどうかを確かめないといけない。
変なものが混ざっていたら吐き出してね。ってことだ。
だから、優劣を判断する製品を見る消費者の目は、中国人のほうが優れている。
私が感じたそれは、作中にある偽物SDカードの話と合致する。
そして、その裏で電気電子の製造の利益率の低さは、今後人件費が上がるにつれて別のものに飛び火するのではないかと思う。
(他所の心配より日本国内のこと考えたほうがいいね)
 
なんだか感想っぽくなくなっちゃったけど。
本に書かれている中国で作っているものはアメリカや日本の製品だけれど、その実態はアメリカとも日本とも違っていて。
なんだか、影の部分を中国に押し付けてしまったような気持ちと、そうしたが故に中国が独自の世界を築き、ある意味では輝いて見える。
そしてそれは、凄い勢いで変わっていて、今この瞬間の中国は、たぶん同じものは二度と来ないだろう。
そんな中国の貴重な一面を切り取った、とても面白い本だと思う。

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